「外来種」の法的定義とそれをめぐる混乱

威嚇するアメリカザリガニ

日本の外来種対策は、外来種の一部を外来生物法の「特定外来生物」として規制するという建て付けになっています。その際、明治以降の外来種を対象にしていますが、一般的な外来種概念にこの縛りはありません。外来生物法・世間一般・国際条約における外来種の定義について、整理します。

外来種の定義をめぐる混乱ポイント

外来種問題を理解するには、用語の整理や定義の確認が必要です。ブラックバスやノネコ、アメリカザリガニなど身近な生き物が絡む外来種問題には、外来種ではない、あるいは外来種駆除は不要とする意見が寄せられます。誤解したまま議論をすすめると、話がカオスになります。

くわえて、用語自体にも外来生物法・世間一般・国際条約で定義の差異があり、混乱するポイントです。

  • 「生物」と「種」はどちらが大きな概念か
  • 外来種に明治以降という縛りはあるか

「生物(せいぶつ)」と「種」ではどちらが大きな概念か

外来ザリガニという「生物」とアメリカザリガニという「種」では、生物の方が大きな概念と考えられます。ところが、外来生物法の用語定義では、外来生物=国外由来外来種の一部を「特定外来生物」として規制する構造で、概念の大小が逆転しています。

この辺りは混乱を招くポイントですが、外来種=外来生物とする使い方の方が一般的です。外来生物=国外由来外来種という定義は、外来生物法に限られます。

外来種に明治以降という縛りはあるか

結論からいうと、一般的な外来種の概念に明治以降という縛りはありません。

猫は明治以前に入ってきたから外来種ではないとする誤った主張があります。外来生物法で規制される「特定外来生物」では、明治以降を対象とする運用が行われていますが、条文で外来生物を定義した箇所には時代の縛りはありません。

海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物

「外来生物法」第一章第二条(定義等)

外来種問題は海外にもありますが、当然「明治以降」という縛りはありません。日本も締結している国際条約「生物多様性条約」や、IUCN(国際自然保護連合)による外来種の定義に、年代による縛りはありません。これについては後述します。

外来生物法における「外来種」「侵略的外来種」「外来生物」「特定外来生物」の定義

ここでは、2022年1月11日に出された最新資料「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置について(答申)」(中央環境審議会意見具申)を元に、外来生物法における各用語の定義を見ていきます。

外来生物法における「外来種」の定義

外来生物法における定義については上記で触れたので、答申における定義はこちら。

外来種とは、ある地域に人為的(意図的又は非意図的)に導入されることにより、本来の自然分布域を越えて生息又は生育することとなる生物種、のこと

特定外来生物の施行状況等をを踏まえた今後講ずべき必要な措置について(答申)

具体的な説明は以下で、外来種の定義として「導入の時期は問わない」と明記されていることに注目。

導入(直接・間接を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。導入の時期は問わない。)によりその自然分布域(その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域)の外に生育又は生息する生物種(分類学的に異なる集団とされる、亜種、変種を含む。)

外来生物法における「侵略的外来種」の定義

「侵略的外来種」とは、外来種のうち、我が国の生態系、人の生命又は身体、農林水産業等への被害を及ぼす又は及ぼすおそれがあるもの

特定外来生物の施行状況等をを踏まえた今後講ずべき必要な措置について(答申)

外来生物法における「外来生物」の定義

外来生物法における「外来生物」とは、海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存する生物

外来生物法第2条第1項

なお、国外由来外来種=外来生物とする定義は外来生物法における法律用語。一般的には外来生物=外来種として扱われます。

外来生物法における「特定外来生物」の定義

答申では、外来生物法における特定外来生物の定義を以下のとおりまとめています。

「特定外来生物」とは、海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物(外来生物)であって、我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物(在来生物)とその性質が異なることにより生態系に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものとして外来生物法に基づき指定される生物。輸入・飼養等が規制されるほか、防除を行うこととされている。

特定外来生物の施行状況等をを踏まえた今後講ずべき必要な措置について(答申)

なぜ外来生物法の「特定外来生物」は明治以降に限定されているか

外来生物法で規制される特定外来生物が、明治以降の侵入種に限定されている点について。これは、外来生物法の特定外来生物の対象はそうするという話で、一般の外来種/侵略的外来種概念には適用されません。

前述したように外来生物法で「外来生物」を定義した条文には年代の縛りはありませんが、特定外来生物被害防止基本方針の「特定外来生物の選定に関する基本的事項」で明治以降という基準が現れます。

1 選定の前提
ア 我が国において生物の種の同定の前提となる生物分類学が発展し、かつ、海外との物流が増加したのが明治時代以降であることを踏まえ、原則として、概ね明治元年以降に我が国に導入されたと考えるのが妥当な生物を特定外来生物の選定の対象とする。

特定外来生物被害防止基本方針の「特定外来生物の選定に関する基本的事項」

外来種に関する情報の基礎となる現行のシステムによる分類に関する科学的な知見は、我が国では明治時代以降に整理されてきたこと、外来種問題が顕在化する根本原因として貿易や物流がそれまでに比べ飛躍的に増大するのは鎖国が終わった明治時代以降であることなどの背景を踏まえ、本報告では、原則として明治維新以降に導入された生物種は外来種としてとらえるものとする。

移入種対策に関する措置の在り方について

なお、植物学では同様の考えから、概ね明治以降に入ってきた種を外来種として扱うことがあります。

これに対し前川文夫が提唱した「史前帰化植物」では、有史以前の人々の移住や稲作の伝来に伴って持ち込まれた外来種を指摘したものです。「史前帰化植物」については、従来在来種と考えられてきたが、実は外来種であったという所がポイントなので、外来種であることに変わりはありません。

なお、植物学では外来種のことを帰化植物と呼ぶことがありますが、同じものを指しています。

帰化植物とは、其の本来の生息域から人為的に他の地域に移され其の地域で二次的に生育繁殖するに至ったものである。

史前帰化植物について(前川文夫, 1944)

海外における「外来種」の定義

外来生物法が制定された背景には、日本も締結している生物多様性条約の存在があります。また、外来種の国際的な定義としては、絶滅危惧種のレッドリストや「世界の侵略的外来種ワースト100」を出している国際組織「IUCN(国際自然保護連合)」によるものがあります。いずれも、年代による制限はありません。

IUCN(国際自然保護連合)による「外来種」の定義

IUCNによる侵略的外来種(IAS=Invasive alien species)の定義は次のとおり。翻訳すると、侵略的外来種は、偶然または故意に、自然分布域外に持ち込まれ、問題となる種、です。

Invasive alien species are species that are introduced, accidentally or intentionally, outside of their natural geographic range and that become problematic.

Invasive alien species | IUCN

問題とは具体的には”They can carry diseases, outcompete or prey on native species, alter food chains, and even change ecosystems by, for example, altering soil composition or creating habitats that encourage wildfires.”であり、翻訳すると、病気を媒介し、在来種を打ち負かしたり捕食したり、食物連鎖を変化させる。例えば、土壌組成を変え山火事を誘発する生息環境を作るなど、生態系を変化させることもある、としています。

生物多様性条約における「外来種」の定義

1993年に日本も締結した国際条約「生物多様性条約」。2002年に開催された「生物多様性条約第6回締約国会議(COP6)」では、外来種問題が取り上げられました。生物多様性に世界的規模で悪影響を与えることが懸念されている外来種問題への対策として、「外来種の予防、導入、影響緩和のための中間指針原則」を採択。そのなかで、外来種関係の用語定義は以下のとおりです。

用語定義
alien species(外来種)過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、それ以下の分類群であり、生存し、繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含む。
invasive alien
species(IAS, 侵略的外来種)
外来種のうち、導入(introduction)及び/若しくは、拡散した場合に生物多様性を脅かす種
introduction(導入)外来種を直接・間接を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。この移動には、国内移動、国家間または国家の管轄範囲外の区域との間の移動があり得る。
intentional introduction(意図的導入)外来種を、人為によって、自然分布域外に意図的に移動及び/若しくは放逐すること。
unintentional introduction”(非意図的導入)導入のうち、意図的でないものすべてを指す。
establishment(定着)外来種が新しい生息地で、継続的に生存可能な子孫を作ることに成功する過程のこと。
生物多様性条約における外来種関係の用語定義

外来生物・外来種・移入種・帰化種・導入種の使い分け

これらの単語のなかで、一番一般的なのは「外来種」ですが、種より生物の方が概念が大きいということで、「外来生物」を好む人もいます。また「外来」という言葉には国外あるいは海外というイメージがあり、国内由来外来種あるいは人種差別に用いる人の存在などから、別の用語を使いたい人もいます。

移入種・帰化種・導入種は、それほど使われていませんが、人による意思の有無あるいは英語のintroduction=導入との対応が考えられます。

まとめ

外来生物法の用語定義では、外来生物=国外由来外来種とするなど、生物より種の方が大きな概念になっています。これは外来生物法のみの特殊な用法で、外来生物=外来種と扱うことが一般的です。

  • 外来種(=外来生物):ある地域に人為的に導入されることにより、本来の自然分布域を越えて生息又は生育することとなる生物種
  • 侵略的外来種:外来種のうち、生態系等へ被害を及ぼす又は及ぼすおそれがあるもの

また、外来種の一般的な定義に年代による縛りはありません。

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