ロシアの侵略から読み解く「新しい生態系ができている」「外来種だって生きている」言論の問題点

アメリカザリガニ

ブラックバスの駆除に反対する「新しい生態系ができている」「外来種だって生きている」という意見。バス擁護派の屁理屈であることはわかっていてもズバッと言い返すのは困難なことも。ウクライナに対する「降伏すべき」論をめぐる議論から現状を追認すると「被害者に泣き寝入りを強いる」「侵略者側に成功体験を与え、今後に禍根を残す」という論点を見いだせます。

–追記

戦争の侵略と生態系の侵略を並べて語るのはどうか、という意見もあろうと思いますが、抽象度を上げて考えてください。当事者同士の勝ち負けの話と法的秩序の話があり、後者の視点もあるよ、という話です。

駆除によって生態系を回復できるかで言えば完全に元通りにできない場合もあるでしょう。これは個別の戦場では負けたと言えるかもしれませんし、占領されて取り戻せないのだからどうしようもないじゃん、という意見に反論しづらい要因になっています。

一方、法的秩序の話は、他の地域にも波及する話です。既成事実を作ればOKなら、被害者はやられ損であり、加害者は同じことを繰り返すでしょう。ですから我々は「駆除しない理由としては不適切だよ」と言っていかなければなりません。

–追記終わり

–追記2

前提が共有されていない相手と議論するときに、戦争の話と外来種問題の話を混ぜないほうが良いでしょう。論点が発散したり、外国人排斥などに飛び火しやすいからです。

–追記2終わり

サマリ

ブラックバス等外来種問題ではバサーから駆除に反対する「新しい生態系ができている」「外来種だって生きている」という意見が来ます。これらは、侵略者側を擁護している以下の問題があります。

  • 被害者に泣き寝入りを強いる
  • 侵略者側に成功体験を与え、今後に禍根を残す

交通事故を起こした時、壊れた車や失われた人命は戻ってきませんが、加害者は刑罰なり損害賠償なり代償を払います。加害者側がペナルティなしに済まされるのであれば、被害・被害者に我慢しろ、という主張になります。

さらに、ペナルティなしで済むなら何度やっても大丈夫というサインを与え、法的秩序が崩れ無法地帯になります。ロシアのウクライナ侵略で言えば、今後侵略される可能性があるヨーロッパ各国あるいは中国と台湾に波及する話なのです。

ロシアの侵略を許容すると国際秩序の瓦解につながる

ロシアのウクライナ侵略は第二次大戦後の国際秩序への挑戦

第二次大戦後の国際秩序は、国連憲章第2条4項「武力不行使原則」によって、世界大戦のような事態を予防しています。ロシアのウクライナ侵略では、常任理事国が堂々と国際憲章に違反し、拒否権を行使して国連を機能不全に陥らせています。これほどあからさまな国際秩序への挑戦があるでしょうか。

国連憲章第2条
4) すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
国連憲章テキスト | 国連広報センター

ロシアのウクライナ侵略を受けて、各国は「力による一方的な現状変更」を一斉に非難しています。

この軍事行動は、明らかにウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反です。力による一方的な現状変更は断じて認められず、これは、欧州にとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがす極めて深刻な事態であり、我が国は最も強い言葉でこれを非難します。ロシアに対し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求めます。
ロシアによるウクライナへの軍事行動の開始について(外務大臣談話)|外務省

ロシアの当初の目的は、プランA=短期間での首都制圧及びウクライナの属国化であったと思われますが、これが失敗するとプランB=全面侵攻、2022年5月現在プランC=東部侵攻と推移しています。

ロシアのウクライナ侵略で流布する「即時停戦すべき」「降伏すべき」論の問題点

ロシアの侵略に対して、人民の被害を抑えるためウクライナ政府は「即時停戦すべき」「降伏すべき」とする意見が見られます。これらの主張に対して、ロシアを利する意見であるとして、厳しい批判が寄せられています。

下記は、ロシア寄りな意見の例です。

ロシア軍は目的を達したとして、兵を首都キエフ方面から撤退させ(※精鋭の空挺部隊が壊滅するなどキエフ攻略に失敗した)、ドンバス東部に兵力を集中させている。イスタンブールでの停戦会談ではウクライナの停戦の条件が示され、楽観的な空気があらわれた。ところが、キエフ近郊の町ブチャでの市民の遺体が発見されるや(※虐殺と認めず矮小化)、ロシア軍の戦争犯罪を非難する声が上がり、ウクライナ軍は怒りに燃えて、さらなる戦闘に向かっている。
(中略)
われわれはあらためて、ロシア軍とウクライナ軍は現在地で戦闘行動を停止し、真剣に停戦会談を進めるように呼び掛けたい。
※部分は筆者による注釈

「憂慮する日本の歴史家の会」の声明

橋下徹氏やテリー伊藤氏なども、同様の主張を繰り返しています。その論拠は以下のものです。「戦争しているどっちも悪い」から日本は中立とすべきだ、という意見も見かけますね。

  • 降伏すれば人民の被害が抑えられる
  • 戦争しているどっちも悪い

これに対する批判は、国際政治学者の篠田英朗氏や細谷雄一教授からされています。

「即時停戦すべき」「降伏すべき」論の問題点

そもそも、第三者が当事者の意向を無視して降伏すべきなどと言えるものではありません。そして、「降伏すれば人民の被害が抑えられる」という主張には根拠がありません。占領後に人民が虐殺されたり、極東サハリンに強制移住させられるといった事態が次々に明らかになっています。

都市ごと破壊したり人民を虐殺したりは、チェチェンやシリアでロシアが繰り返してきたことです。まさか、世界中が注目しているウクライナでは控えるだろうと思っていたら、相変わらずやっているわけです。

ロシアはチェチェンやシリアでも同じことをやってきた話。

ロシアの政府系メディアRIAノボースチが、ウクライナの民族浄化を主張している例。こんな相手に降伏できるわけがない…。

「降伏すべき論」のほかに「即時停戦すべき」論も見られます。ウクライナに即時停戦を求めるということは、占領下の領土・人民が失われることになり、当事者が決めたならともかく外部から強要できるものではありません。

この戦争を終らせるには、被害者であるウクライナに停戦・降伏を求めるのは筋違いで、侵略者であるロシアが撤兵すべきです。

戦争を終結する方法

「どっちもどっち論」の問題点

戦争は悪い、つまり戦争しているロシアとウクライナ双方が悪い、したがって日本は中立の立場を取るべきだという意見があります。当然、そのようなことはありません。

ロシアの侵略が「武力の行使」で国連憲章第2条4項に違反するのに対し、ウクライナが行っているのは自国領土を守る「個別的自衛権」の発動であり合法です。

合法根拠
武力の行使国連憲章第2条4項
個別的自衛権国連憲章第51条
集団的自衛権国連憲章第51条
国連の軍事的措置国連憲章第42条
戦争の合法/違法

第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動

第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

(中略)

第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

国連憲章テキスト | 国連広報センター
戦争の違法化と自衛権

ロシアのウクライナ侵略を許容すると国際秩序が崩れるとはどういうことか

大国が実力で好き放題できるようになると、19世紀の帝国主義の世界です。ロシアがドネツク・ルガンスクで行ってきたように相手国で内乱を起こし、自国民を保護する名目で介入・侵略という構図は、中国と台湾などで懸念されている形そのものです。

つまり、ロシアのウクライナ侵略を許容するかどうかは、第二次大戦後の法的秩序・国際秩序を維持できるかという問題であり、世界各国がウクライナを支援する理由になっています。

外来種問題で見かける「新しい生態系ができている」「外来種だって生きている」から駆除するなという言論に対する回答はどうすればよい?

ブラックバスは2005年に「特定外来生物」に指定され、放流が禁止されている侵略的外来種です。ところが、釣り人による違法放流が繰り返され各地に広がっています。そうして在来種を食い荒らし、場所によっては外来種ばかりの池ができあがります。

こうした池で外来種を駆除しようとすると、釣り場を奪われるバサーから反対の声が上がります。「新しい生態系ができている(から駆除しても無駄だ=降伏しろ)」「外来種だって生きている(食う・食われるも自然の摂理)」というわけです。

これらの理由で駆除しない場合、在来種の被害が拡大するとともに、違法状態を固定化することになります。人が関与しなければ、ブラックバスはこの場におらず、したがって「食う・食われる」自体発生しません。ですから、「どっちもどっち」論で自然にまかせておけば良い、という立場は誤りです。

さらに、既成事実を作れば許容されるサインとなり、新たに違法放流が繰り返される原因になります。すべての水域を監視できず違法放流の検挙が難しい現状において、やるべきことではありません。

ということで、ロシアのウクライナ侵略同様、違法状態を許容することは今後の法的秩序を崩すことになるので、外来種問題において「新しい生態系ができている」「外来種だって生きている」は駆除しない理由としては不適切という話でした。

外来種問題の前提知識

アメリカザリガニの巣穴
アメリカザリガニの巣穴

外来種問題とは、侵略的外来種が引き起こす害をどうするかという問題です。外来種とは「もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物(環境省)」のこと。小学校で大陸からの稲作伝来を習いますが、日本人の主食である米(稲)は外来種の代表格です。

外来種の多くは日本の自然に馴染んでいますが、その一部は生態系、人の生命・身体、農林水産業等への被害を及ぼす侵略的外来種として駆除対象となります。つまり、外来種問題とは侵略的外来種をどうするかという問題です。

侵略的外来種のうち特に害が大きいものは「特定外来生物」として法規制対象となります。アライグマ、ブラックバス、ヒアリ、カミツキガメなどが代表例で、アメリカザリガニとミシシッピアカミミガメも来年2023年から特定外来生物に指定される見込みです。

「特定外来生物」に指定された生き物では、以下の行為が禁止されます。

特定外来生物で禁止される行為
環境省資料

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