日本の外来種対策 〜外来生物法成立にいたる経緯〜

アメリカザリガニ

2004年に成立した「外来生物法」は、侵略的外来種による被害を食い止めるための法律。海外から人の活動に伴って入ってきた外来種のうち、生態系 ・人の生命や身体・農林水産業に対する被害が大きい種は外来生物法の「特定外来生物」に指定され、法規制の対象となります。具体的には、輸入・売買・生きたままの移動・飼育・放流などが禁止され、積極的な防除の対象になります。

外来生物法の目的は“外来種対策”

外来生物法は、正式には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」といい、特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止することを目的としています。

外来生物法で規制される「特定外来生物」とは

もともと日本にいなかった生物(外来生物)のうち、生態系などに被害を及ぼしたり、その恐れがあるものを「特定外来生物」として指定し、飼育・栽培・保管・運搬、輸入、販売・譲渡、放出などを原則として禁止しています。

輸入を禁止することで、国外からの特定外来生物の侵入を防ぎ、飼育や運搬などを禁止することで国内における
特定外来生物の拡散を防ぎます。また、国内に侵入したものについては、必要に応じて防除が行われます。

「外来生物法」制定の背景

日本の外来種対策の進展については次の章を見ていただくとして、外来生物法制定の背景には国際条約「生物多様性条約」の締結があり、それを受けて様々な法規が整備された経緯があります。とはいえ、これらの条約や生物多様性国家戦略が外来種対策として法制度の整備まで求めていたわけではありません。

法制度の必要性については、環境省が野生動物の保護を行おうとしたとき、研究者たちから外来種対策の必要性が相次いで指摘されたこと、2001年の総合規制改革会議の第一次答申で外来生物対策制度導入の必要性を提言されたことが影響しています。この総合規制改革会議のワーキンググループに保全生態学者である鷲谷いづみ氏と環境法学者の大塚直氏が入っていたことが大きいのでしょう。

また、外来種問題に係る仕組みとしては、現在、外国からの生物の輸入や国内での移動に関するものが幾つか存在するが、その目的は「農業生産の安全及び助長を図る」等であり、生態系、生物多様性、人の健康や産業など広範な人間活動に影響を与える外来生物のリスク管理全体を幅広くカバーするものではない。内閣府大臣官房政府広報室「自然の保護と利用に関する世論調査」平成13年5月によれば約9割の国民が外来生物に対する持込み制限などの規制を望んでいることにこたえるべく、「人と自然との共生」を図る観点から外来種問題に係る仕組みを整備する必要がある。

「総合規制改革会議」第一次答申

法整備を確実にしたのは、2003年の中央環境審議会が出した答申。生物多様性条約のCBD指針原則について「指針原則に示された内容には、外来種対策として採るべき施策の方向性が網羅的に示されており、これに我が国の事情を加味して適切な制度を構築するのが妥当な方針と考えられる。」と一歩踏み込みました。

平成 14 年3月に地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定された新・生物多様性国家戦略においては、人間活動ないし開発が直接的にもたらす種の減少や生態系の破壊だけでなく、外部からの生物の導入の問題が生物多様性の危機の一つとして掲げられており、こうした問題に対し、早急に対策を実施するための法制度の整備などが必要である。

中央環境審議会答申「移入種対策に関する措置の在り方について

日本の外来種対策の進展

1993年に日本も締結している国際条約「生物多様性条約」。「生物多様性条約」では、締約国政府に対し、生物多様性に関する国家的な戦略、行動計画または実施計画を策定するよう求めています。その結果、1995年に「生物多様性国家戦略」が策定され、2004年の「外来生物法」や2008年の「生物多様性基本法」など関連法規が整備されています。

1992年 「生物多様性条約」が採択され、外来種問題に対する国際的な取り組みが始まる

リオの地球サミットにあわせて採択され、日本は翌1993年に締結、同12月に発効した。「生物多様性条約」第八条 生息域内保全「(h)生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること。」。生物多様性条約の略称はCBD。

1995年10月 「生物多様性国家戦略」策定

「生物多様性条約」第6条「保全及び持続可能な利用のための一般的な措置」を受けて策定された。「生物多様性国家戦略」のなかで、外来種対策は、絶滅危惧種の生息域内保全を推進するために必要な取組の一つとして位置付けられた。

2001年1月「環境省」発足

環境庁は1971年に公害問題解決を目的に設立された。2001年の中央省庁再編の一貫で、環境省として昇格した。公害対策から環境保全の時代への転換という側面があった。

2002年3月 「新・生物多様性国家戦略」策定

新・生物多様性国家戦略」のなかで、外来種問題は、わが国の生物多様性保全上の危機の一つとして位置付けられた。

2002年4月 「生物多様性条約」第6回締約国会議(COP6)で外来種が取り上げられ、「生態系、生息地及び種を脅かす外来種の影響の予防、導入、影響緩和のための指針原則」が採択される
2003年3月 中央環境審議会が答申「移入種対策に関する措置の在り方について」で法整備の必要性を指摘

移入種対策に関する措置の在り方について」で、2002年の新・生物多様性 国家戦略において人間活動ないし開発が直接的にもたらす種の減少や生態系の破壊だけでなく、外部からの生物の導入の問題が生物多様性の危機の一つとして掲げられており、こうした問題に対し、早急に対策を実施するための法制度の整備などが必要である、とした。

答申に先立って行われた2001年の内閣府世論調査で、移入種問題について「知っている」と答えた者の割合が58.4%と過半数を超えている。

世論調査「移入種問題(外来種問題)についての認識」
平成13年度世論調査「移入種問題についての認識
2004年5月 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」成立

外来生物法に基づき指定された特定外来生物については、飼育・栽培、運搬、輸入、野外への放出、譲渡等が規制されるなど、日本においても本格的な対策が始まる。

2008年 「生物多様性基本法」成立

生物多様性基本法」では、生物多様性の保全と利用に関する基本原則、生物多様性国家戦略の策定、白書の作成、国が講ずべき13 の基本的施策など、わが国の生物多様性施策を進めるうえでの基本的な考え方が示された。 また、国だけでなく、地方公共団体、事業者、国民・民間団体の責務、都道府県及び市町村による生物多様性地域戦略の策定の努力義務などが規定した。

「外来生物等による被害の防止」も基本的施策の一つに取り上げられている。

2010年3月 「生物多様性国家戦略2010」閣議決定

生物多様性国家戦略2010」は、「生物多様性基本法」が生物多様性国家戦略の策定が法的に規定されたことを受けた初の国家戦略。

2010年10月 「生物多様性条約」第10回締約国会議(COP10)で、愛知目標が設定される

愛知目標では、侵略的外来種に関するものとして、個別目標9「2020年までに、侵略的外来種とその定着経路が特定され、優先順位付けられ、優先度の高い種が制御され又は根絶される。また、侵略的外来種の導入又は定着を防止するために定着経路を管理するための対策が講じられる。」が設定された。

2012 「生物多様性国家戦略 2012-2020」

2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された愛知目標の達成に向けた日本のロードマップを示すとともに、2011年3月に発生した東日本大震災を踏まえた今後の自然共生社会のあり方を示すため、「生物多様性国家戦略2012-2020」を2012年9月に閣議決定した。

生物多様性国家戦略2012-2020」では、生物多様性への危機を4つに整理し、外来種問題を「第3の危機」と位置づけた。

2013年 「外来生物法」改正

施行から5年たったため見直しが行われた。「特定外来生物の野外への放出等を可能に」とは研究・調査目的の例外を認めるということ。

  • 外来生物の交雑種も規制対象に
  • 特定外来生物の野外への放出等を可能に
  • 特定外来生物が付着・混入している輸入品等への措置を規定
2015年3月 「生態系被害防止外来種リスト」公表

2法に基 づく規制の対象である特定外来生物のみならず、特に侵略性が高い外来種を幅広く選定した「我が国の生態系等に被 害を及ぼすおそれのある外来種リスト」が公表された。通称は「生態系被害防止外来種リスト」。

従来、アメリカザリガニなどのように特定外来生物には指定されていないが、被害が大きく対策が必要な種は「要注意外来生物リスト」で公表されていたが、現在「要注意外来生物リスト」は廃止されている。

COP10を受けて改定された「生物多様性国家戦略」のなかで、2014年までに「侵略的外来種リスト」を策定することが主要行動目標として掲げられたため、「要注意外来生物リスト」を発展解消する形で検討し直されたものが「生態系被害防止外来種リスト」である。

2015年3月 「外来種被害防止行動計画」策定

外来種被害防止行動計画」では、国・自治体・民間団体・企業・研究者・国民等の多様な主体が外来種対策に取り組むに当たっての行動指針、それらを踏まえた国の具体的な行動を示している。

2022年 「外来生物法」改定(予定)

2013年の前回改定から5年経つため、施行状況の評価及び改定が進行している。アメリカザリガニとミシシッピアカミミガメ規制を目的とする「特定第二種外来生物」制度の創設が見込まれている。

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